映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』感想(ネタバレあり)

あらすじ

 リック・ダルトンは1950年代にテレビドラマ『Bounty Law』の主人公として人気を博していた。その後、映画界への転身を試みたが、思うような結果にはならなかった。1969年の時点で、リックはテレビドラマへのゲスト出演で糊口を凌ぐ状況にあった。リックは当時勢いを増していたマカロニ・ウェスタンへの進出を勧められていたが、そのプライドの高さ故に躊躇していた。キャリアの打開策が見つからず苦悩するリックの支えになっていたのは、『Bounty Law』時代からのスタントマン、クリフ・ブースであった。
 そんな折、リックの隣家にロマン・ポランスキーが妻であるシャロン・テートと一緒に引っ越してきた。ポランスキーは新進気鋭の映画監督として注目されており、キャリアが低迷するリックとは対照的な存在であった。
 物語の最後、交わりそうにない2人が期せずして交わることになった。


感想

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が描く1969年のハリウッドは黄金期のハリウッドではなく、転換期のハリウッドである。西部劇や大作ミュージカル映画の全盛期が過ぎ、アメリカン・ニューシネマと呼ばれる流れが生じつつある時期であった(ニューシネマの嚆矢とされる『俺たちに明日はない』の公開は1967年のことである。リックはデニス・ホッパーの名前をヒッピーたちへの罵倒語として使用したが、そのホッパーの代表作『イージー・ライダー』は1969年7月に公開された)。
 劇中劇のシーンを見れば分かるように、リックの演技力はそれなり以上のものだったが、役に恵まれないばかりに低迷していたのである。当時のハリウッドにもポテンシャルはあったはずだが、それを現実化することができずにいた。こう考えると、キャリアの低迷に喘ぐリックは低迷する当時のハリウッドを象徴する存在として機能しているのではないか。
 カンヌ国際映画祭で本作がプレミア上映された際、記者会見の席で「シャロン・テートの台詞が少ないのは何故か」という質問が飛び、それを聞いたタランティーノ監督の機嫌が露骨に悪くなるという一件があったらしいが、台詞が少なかった理由は何となく推察できた。確かに、シャロンは1969年8月のハリウッドを描写する上で欠かせない存在である。しかし、本作の話のメインはリックの苦悩・葛藤である。シャロンが話のメインに関わってくるのは結末部だけである。それ以前のシャロンの描写があっさりしたものになってしまうのはやむを得ないと思う。
 タランティーノ監督は『イングロリアス・バスターズ』と『ジャンゴ 繋がれざる者』で史実の改変をやったことで知られるが、本作でも史実を改変している。史実では、シャロン・テートはお腹の中にいた赤ん坊ごとマンソン・ファミリーに殺害されたが、本作ではクリフとリックによって一味が撃退され、シャロンは生き延びている。改変の是非についてはよく分からないが、個人的には楽しめたので是としたい。ただ、どうせやるなら、『ジャンゴ 繋がれざる者』くらい派手にやるべきだったと思う。同作では、主人公のジャンゴによって奴隷使役に関わった人々が一人残らず成敗され、奴隷を使役していた牧場主の豪邸も爆破されるわけだが、本作で成敗されたのはたった3人である。リックが火炎放射でとどめを刺すシーンは派手だったが、銃やナイフ、カンフーアクションを思いっ切り使って欲しかった。
 
 本作はハリウッドの一線級の俳優たち―主演のレオナルド・ディカプリオブラッド・ピットは言わずもがな。脇役はマーゴット・ロビーアル・パチーノブルース・ダーンダコタ・ファニングらによって固められている―が惜しみなく起用されているので、演技に関しては100点どころか120点を付けたくなるほどであった。特に、クリフ・ブース役のブラッド・ピットは今までにないほど輝いていたように思う。セクシーでチャーミングなおじさんである。また、クリフの飼い犬、ブランディの忠犬ぶりも多くの観客の印象に残るものであろう。